HKTドキュメンタリーを観た

 

TOHOシネマズの日本橋でHKTドキュメンタリー観てきましたよ。結論から言うと、面白かった。すごい!と思った。ついでに言えば初回より2回目のが楽しめた。でね、なんで面白かったのかなー?ってずっと考えてたことを文章にしてみたい、と思って即席でブログを立ち上げたのです。なので継続しようとかいう意識は皆無(笑)。今宵限りだと思ってください。長くなります。

 

AKB48グループというものにすっかり失望した僕はもう半年以上前からオタ熱がなくなっていて、現場にも出てないし、最近の情報はほとんど追いかけてないので、素っ頓狂なことを言ってしまうかもしれないけれど許してください。(とはいっても周囲にはいまだオタクが多いので勝手に情報は入ってくるんですが...)

 

すごい!と思ったことを3つ挙げると

 

1.「さっしーが主観性から逃げなかったこと」

2.「AKBのドキュメンタリーとはっきり差別化したこと」

3.「深いテーマに踏みこみつつ、全体として幸せな映画にしていること」

 

 

ですかね。

 

まず1の「さっしーが主観性から逃げなかった」というのは、始まりからね「りこぴっていい奴なんだよ~」みたいに、語弊のある言い方をすれば、はっきりと自分の推しメンをガンガン推していくスタイルを取ったんですよね。そこが素晴らしい。

 

やっぱりね、劇場支配人でプレーヤーでもある人がドキュメンタリーを撮るって大いなる矛盾を抱えているわけですよ。絶対に色眼鏡で見られるしね。で、ちょっと客観性に逃げたくなるわけ。客観性を装いつつポジショントーク的なことをしてしまう。外部の人はね、やり易いと思うんですよ。誰を中心にやろうが、まああの人はドキュメンタリーの監督だから、って言い訳が立つ。でもさっしーみたいなポジションの人は誰を、何を取り上げるかの塩梅が非常に難しい。

 

ドキュメンタリーに限らず人が何かを表現するときポジショントークってある程度避けられないと思うんです。客観、中立、公正なんてものはかなり怪しくて、何かを述べるとき、表現をするとき、主観性は色濃く滲んでしまう。そこで誠実な態度って「私はポジショントークをしていますよー」ってことを明確して表現することなんですよね。作り手が誘導している、って意志をぶっちゃけてしまう。ドキュメンタリーを撮る指原莉乃のドキュメンタリーとか過剰なナレーションとか...まさにそれ。作り手の意志をはっきり観客に伝えてる。

 

さっしーが取った手法は自分の主観性を前面に押し出して映画ののっけから「これは私が見た、私にとってのHKTですよー」ってことをしつこいくらい観客に説明していくスタイルですよね。自分が長年、被写体として撮影・編集されている人でもあるからドキュメンタリーの嘘に敏感なのでは...?これが僕には誠実に見えたし、「面白さ」という点でも正解ですよね。指原莉乃を監督にした以上、そこに作家性、指原莉乃らしさが明確に滲むから楽しいわけで。マイケル・ムーアを参考にしたのは正解でしたね。

 

で、さっしーが自分が取り上げたい子にたっぷりと尺を用意する一方で、不自然なくらいいろんなメンバーが登場する優しさはアイドルが撮るアイドル映画として圧倒的に正しい。まおぱにとか冨吉の登場シーンとかね、普通に考えるといらないでしょっていう(笑)でも、最初はちょっと混乱した構成も慣れてくるとなんだか良いアクセントになるんですねこれが...(笑)後輩がはしゃぐ横で完全に気を抜いている宮脇咲良若田部遥のとことか好きです。

 

1期、2期、3期でわけてグループトークという形にしたのも絶妙。あれでメンバー全員を登場させることができるし。HKTらしいな、と。このグループトークでいちばんグっときた、というか心に残ったのは山下エミリーの「(3期研究生はこのままだと)後輩から見下される」との発言かな。1期、2期と比較してさっしーとの接点が少ないこともあってか、3期は控えめすぎで、ドキュメンタリーらしく彼女たちの問題点が露呈してしまっているんですよね。僕、荒巻ちゃんには「いつか爆発するんじゃないか...」って期待を寄せているんで正直、もうちょっと人前で喋って欲しい(笑)と思わないでもない。ただねー、やっぱりペラペラ話せるだけがアイドルじゃないから。彼女はセンターにしたら面白いなあ、って思います。

 

 

2.については少し深読みかもしれないけど、さっしーって高橋栄樹監督のAKBドキュメンタリーがあまり好きではないような気がするんです。総選挙1位を黒歴史化(笑)された恨みもあるかもしれませんが、それ以上にステージ裏で前田敦子過呼吸になっているシーンとか、平嶋夏海の公開謝罪シーンとか、ああいう過剰なリアルさを追求していくスタイルに疑問を持っているのではないか、と。少なくともHKTではそれをしたくないってのが映画を見ると明らかですよね。(ちなみに僕はAKBのドキュメンタリーも大好きです)

 

ここはこの映画に対する大きな批判ポイントとして挙げられると思うんですよ。要するに5人の脱退のことね。少し触れたけど正面からは切り込まなかった。そういうこともあったよね的紹介で終わっていました。正確には正面から切り込まない理由をわざわざ説明することで批判を回避した、というべきか。

 

5人の脱退に関してはね、たぶん本気でやろうと思えばできたと思うんですよ。元メンバーのインタビューとか事の顛末とかね、たぶんできたと思う。ここはアンタッチャブルだから、って感じじゃない。それぞれの現在の事情とか、あるいは村重の件との整合性が取れないとか、いろいろ理由はあると思うんですけど(自分自身の件もあるし)、根本的にはさっしー高橋栄樹的スタイルに対するアンチテーゼだと思うんですよね。ああいうのにしたくない、っていう。「食い足りない」って人も多いと思うんですけど、僕は好意的です。

 

アイドルのドキュメンタリーでスキャンダルを扱うの、ってやや食傷気味というのもあります。あとは、そうですね、5人の脱退を描くと必然的に1期生の話に偏りすぎになるってのもあるかなー。佐藤元支配人の取り上げ方はちょっと中途半端だったのは否めません。

 

 

 3についてはもしかしたら「え?」と思う人も少なくないはず。AKBのドキュメンタリーとかNMBのドキュメンタリーとかね、ああいう方向性こそを楽しいと思う人にとっては。2.とも関係してくるんですけど「ヌルい」みたいな意見は、まあ、あるかと。で、僕も好きだったはずなんですけどNMBのドキュメンタリーを観て気づいたのは...「なぜ少女は頑張るのか」とか「格差社会の中で」みたいな厳粛なノリに今は飽きちゃってるのもあります(笑)それはもう今まで散々やってきただろう、と。

 

 

 で、この映画でさっしーが提示しているテーマは大きくわけて3つあって

 

 

A.旧き良きAKB...高橋みなみイズムの継承

B.劇場公演の価値

C.指原莉乃卒業後のHKTについて

 

 

ですかね...。

 

 

A.は坂口理子とそのオタの奮闘に当たります。一度も選抜に選ばれたことがない彼女が狭き門を突破し、りこぴオタが涙するのシーンはオタならば心揺さぶられるところですよね。りこぴオタが「努力は必ず報われる」と言っていましたが、綺麗な形でオチがつきました。“光”を見せる一方で、いもむchu!メンバーである後藤泉の卒業を取り上げる形で、“陰”も取り上げるあたりが残酷でフェアだなあ、と。

 

 

 で、ここではりこぴを取り上げるんですけど、選抜会議を見せ、尾崎支配人に基準を語らせ、「秋元康が決めているわけじゃない」ってエビデンスを提示することで(笑)他のメンバーとそのオタに「諦めるな」というメッセージを送ってるんですよねー。エンディングで「みんな諦めてませんから」とダメを押すのは余計でしたが...。秋元康が「田中菜津美とかー」でスルーされるのは笑いました。

 

 

B.については、ちょっと驚きました。何に驚いたといえば上野遥に対してさっしーが「劇場での努力は報われると思う?」って投げかけるんですよねー...ここすごい!と思った。上野遥がちょっと涙ぐみながら、何度も考えたであろうその質問について逡巡しながらも、しっかりと、これまで自分がやってきたことに自信も持ちつつ、「私は思いたいです。後輩にもそれを見せたい」って言うんですよねー。ここ、この映画でベスト3に入るお気に入りシーン。

 

これは高橋みなみの「努力は必ず報われると、私、高橋みなみは、人生をもって証明します」に通じる名言というか、素敵な決意の言葉。その後、クライマックスで上野遥をセンターに迎えた主題歌を与えるサプライズで映画的カタルシスに繋がるんですけど、今後もできれば「劇場公演を頑張ることで報われる」ってのを、HKTは形にしてほしいんですよね。さっしーが難しいと知りつつ、このテーマを中心に据えたのって、願望として「報われて欲しい」という想いが必ずあったはずだから。

 

あの映画の終わり方は最高だったなー。

 

 

C.はこのドキュメンタリーで僕がいちばん衝撃を受けた部分に繋がります。映画全体としてさっしーは「自分がHKTから去ること」をプンプン匂わせているんですけど、自分が去ったあと、あるいは自分がHKTを去るためには兒玉遥に頑張ってもらわなきゃ困る、とはっきり言ってしまってるんですよねー。いやー、みなさんはどう思われたのかわかりませんが、僕はいちばん驚きました。(明言はしてませんが)おそらく自らが総選挙で選抜入りを逃したこと、同期でもある宮脇咲良との差、を気にかけ「HKTを引っ張っていく」と自信を持って言えない兒玉遥に対して「そう言ってほしい」と迫るばかりか、さらに自分の名前と、宮脇、朝長、田島の名前を挙げ、それでも「HKTではるっぴの輝きに勝てる人はいないし、HKTを支えるのははるっぴしかいないと思っている」と畳み掛けるのです。で、「HKTをナンバー1にしてくれますか?」って尋ねちゃう。

 

 

 正直、え?そんなに踏み込んでいいの?と思いました(笑)。アイドル映画史上、支配人のような立場にある人が特定のメンバーにここまで期待を寄せる言葉を投げるシーンって今まであったのかな?わからないですけど、前代未聞なシーンだなーと。ギャグとはいえ兒玉遥に「HKTを引っ張る」と言わせた直後に「はるっぴに咲良の倒し方を教えて」と武井壮に突撃取材いくシーンを流すのも偶然ではないでしょう。ここでも彼女は自らの溢れる主観性を隠そうともしていません。

 

 

しかも、映画のクライマックス近くでダメを押すんですよねー。 さっしーが紅白落選をメンバーに伝え泣きながら「私とらぶたんをみんなの力で紅白に連れて行って」と言い、尾崎支配人が嗚咽する。映画のタイトルにもなったこのシーン。実は(僕的な)この映画の最重要シーンはその直後に訪れます。

 

 

 結成以来ずっとキャプテンを張る穴井千尋と今やAKBのセンターでもある宮脇咲良の2人が紅白落選について「悔しい」と言いつつも「尾崎さんが泣くと思わなかった」などと女の子らしい会話に興じている、そのすぐ後ろを憮然...まさに憮然としか表現できない足取りでエースである兒玉遥が通り過ぎる。そしてカメラはHKT劇場の座席にポツンと一人座り、暗がりで何かを想う兒玉遥の横顔を映し、映画はクライマックスに突入していく...

 

(このとき宮脇咲良の視線は一人思い悩む兒玉遥を捉えていたのだろうか?わからない)

 


ここではナレーションを排していますが、映像で伝えたいメッセージは明らかです。指原莉乃が「HKTを任せても良い?」と問い、その重圧に兒玉遥が悩んでいた先ほどの2人の会話の反複であり、回答でもあります。

 

HKTは指原や咲良や美桜や芽瑠じゃない。キャップでもない。

 

 

はるっぴが「HKTを背負うんだ」という宣言を絵として見せたのです。

 

 

な、な、な、なんて男前なシーンだろう(笑)

 

 

素晴らしすぎて濡れました。

 

 

まじで映画的名シーンでした。

 

 

でもまあ、はるっぴはどえらいものを背負わされたなあ。坂口理子上野遥に関してはいちおうこの映画ではハッピーエンドですけど、兒玉遥だけちょっと違いますからねー。ぜんぜんハッピーじゃない(笑)。

 

ここでもさっしーは正直で、HKTはいまだに指原莉乃ありきで、グループを背負えるメンバーがいないってことを暴露しちゃっているあたりがドキュメンタリー的ですよね。それゆえの兒玉遥指名ですから。果たして兒玉遥はHKTを背負っていけるか?HKTメンバーはさっしーを紅白に連れていけるような奮闘を見せるか?

 

 

しばらく離れていた僕も、HKTに興味が戻ってしまいそうな幸せな映画でした。噛めば噛むほど美味しい映画。やばい(笑)